インド修業旅行記

〜「インドはピンきりの国・・・」〜

快フィットネス研究所 所長 吉井 雅彦

 

 平成1968日〜17日の10日間、木村慧心先生の日本ヨーガ・ニケタンが2年に1回開催する「インド集中修行会」に森田先生とともに参加させていただきました。平成13年バンガロール、平成15年リシケシュに続き今回で3回目のインドでした。

今回はインドのニューデリーから北へ約550km(パキスタン、中国チベットの国境近く)、ヒマラヤのふもと海抜2,000mに位置するマナリのヨーガ・ニケタンの道場での修業と、マナリから海抜4,000mに上がったところにあるロータン峠および峠から少し戻った海抜3,000mのコティナラキャンプ地での修行が主な目的でした。

 とにかくインドといえばヒマラヤ。そのヒマラヤにすぐ手が届く位置のところまで行くのですから胸が躍らないわけがありません。

 今回は前の2回より3日間長い10日間の旅程でした。皆さんはたっぷりと修行をしてきてさぞかし人間ができて帰ってきたんだろうなとお思いかもしれませんが、なんとマナリまで行くのに片道3日間かかるのです。つまり往復で6日間。インド滞在の最終日はニューデリーでの1日自由行動日が設定されていましたから、結局マナリでの修行は…3日間でありました。従いまして深い瞑想により人間性を高める前に帰ってきてしまった…ということですから誤解無きようお願いいたします。

 片道3日間を要すると言いましたが飛行機で1日、ニューデリーからマナリまで約550kmで丸2日間かかるのです。と言うのも、ニューデリーからマナリまでは一般道をバスで行くしかないのです。車線のない道路でどこから路肩なのかも分からない。山道ではガードレールなどはまったくなく、目印のコンクリの塊がところどころにあるだけですぐ下は断崖絶壁。時々亀さんのようにひっくり返って腹を上に向けているトラックがありました。そんな道路を車はもちろんオートバイ、自転車、歩行者、馬車などが一緒くたに通行しているのです。途中事故渋滞はもちろん、州をまたぐときに通行税を取られるのにしばらく待たされ、途中の主要な町では大型バス2台がすれ違うのがやっとこさというところでは車の糞づまり状態で動かず、はたまた羊の群れが道路を横断するのを眺めなどなどで日本では1日で楽勝な距離も丸々2日間かかってしまうのです。しかも穴ぼこだらけで座っているシートはぴょこたん跳ねまくり。疲れました。

 「インドは暑い」が代名詞ですが、目的地のマナリはヒマラヤのふもと海抜2,000mの高地ですからインドの避暑地みたいなところです。ただしちょうどその日にニューデリーなどでは記録的な暑さで47~49度あったようです。これにはインド人もビックリ!ではなかったかと…。

 今回の修行旅行は日本全国から87名の参加でした。木村先生のご活躍が日本全国に行き渡っていることを物語っています。マナリまでは大型バス4台での移動でした。

 我々が使用したバスはインドではエアコンつきの窓が開かないタイプのいいバスでした。昔はエアコンがオン・オフのみの調整だったのが、この頃では強弱の調整が効くようになり快適になったとは言え、微調整は効かずバスの中は冷え冷え。

 ところがニューデリーを出てしばらくしたら1台のバスのエアコンが故障してしまったとのこと。先ほども書きましたように当時は記録的な猛暑。そのバスの中は蒸し風呂状態だったとか。エアコンのスイッチを入れても作動せず、噴出し口からは空気が出ず。エアーが来ない…これがほんとのエアーコン!…(^_^;)冗談はさておき、乗っていた人たちは大変だったようで体調を悪くしてしまった人も出てしまったくらいでした。次の日には他の1台のバスのミッションギアが入らなくなりのろのろ運転。そしてパンク・・・とバスのトラブル続きでした。聞くところによると、インドの車は「故障しやすいが直りやすい」とか?確かにそれぞれの故障の後すぐに復活していました。いいような、悪いような。

 修行するヨーガ・ニケタンの道場は、木村先生がインドで学んだスワミ・ヨーゲシヴァラナンダ大師の関連の道場です。前回滞在したリシケシュ(ビートルズが居たことで有名な街)およびニューデリー市内、バンガロールにもヨーガ・ニケタンがあります。

 道場での修業は、朝、晩の2回。1回につき23時間。内容はお師匠様のお話。世(宇宙)の成り立ち、生き方、神様との関係などなどのお話を聞きその後その日のお話に沿った瞑想をします。(30分〜1時間)瞑想は必ず何かのテーマが与えられそのことについて考えていくやり方です。今回のお師匠様は、木村先生の兄(姉)弟子であるラルナ、アリタ(姉妹)両大師。ヨーガの世界で女性というのは珍しいのだそうです。お二人は小さいときに二人同時に神様からの啓示があり親元を離れて修行された方々と聞いています。木村先生の通訳でお話をお聞きしました。

 瞑想といえば蓮華座。脚を組んで座りますが、なにせなまくらヨーギー。20分もすると足がしびれ、そのうち苦しくなってきます。そうなるとテーマについて考えるどころではなくなります。冷や汗たらたら…。このことを参加者が大師様に質問しました。すると「身体の苦痛に気持ちが行くということはまだまだ瞑想が浅い証拠だと…。」…やはりそうであったか!しかし後日、他の方が「座っているとどうしても足が苦しくなってしまうのですが…?」という問いに対して、「ならば苦痛にならない座り方、例えば椅子に座るなどして瞑想すればよい。」とのこと。痛みをこらえる苦行をしなくてもいいのだと知ったら少し気が楽になったのはおそらく僕だけではなかったでしょう。

 今回、森田先生と僕はヨーガの聖名拝受をしていただきました。火を炊きながらの護摩供養をし、その後聖名を拝受しました。僕が頂いた聖名は「アミターナンダ・ヨーギー」(永遠の歓喜のヨーガ行者)…常に歓喜を持ってヨーガを行じろ!ということでしょうか?他の聖名を頂いた方々のを見せてもらいましたが、今現在のあり様を名前にしてもらった人、今後そういう風になりなさいという意味を込めての名前の人がおりました。僕の場合はさしずめ、これまであまりになまくらヨーギーだったのでもっと喜んでヨーガに励みなさい!ということだと解釈しました。

 …皆さん!ここまで書けば、当然の事ながら森田先生の聖名を知りたい?…ですよね!仕方がない、森田先生には内緒でお教えしましょう。森田先生の聖名は、「品性の聖者」。いいですか!ヨーギーではないのです。聖者なのです。格が少々違います。さすがです。「品性の聖者」…品性がある?、これから持て?…皆さんのご想像にお任せします。

 今回の修行のひとつの目的、4,000mのロータン峠での修行。聞くところでは2年前の修行会の時には今回同様ロータン峠に上がるはずだったのですが当時雪が深くて断念したのだそうです。今回は幸い天候に恵まれました。(皆、自分の行いが良いからだと思っていた…。)マナリからロータン峠までは約50q。海抜2,000mから一気に4,000mに上がります。道路はもちろん山道、断崖絶壁、ガードレールなし。ここを約30台のジープに分乗してロータン峠を目指しました。途中道端には多くの毛皮のコートのレンタルショップ(掘っ立て小屋)がありました。中にはスキーを置いてある店もあります。インド人が避暑がてらロータン峠に上り雪を体験に行くのです。暑いところから来た人はコートなど持っていないのでここで借りて上まで行くのです。確かに上の雪渓では多くのインド人が雪遊びを楽しんでいました。

 僕は雪の降らない静岡市の出身です。僕は初めて雪が空から降ってくるのを見たのは19歳の冬、仙台でした。雪国の人には信じられないかもしれませんが、静岡では小学生の頃「雪見遠足」と称して、日帰りでバスをチャーターして富士山の5合目まで行き、雪遊びをするのです。僕がそのとき雪を触った感激を、きっとここのインド人も感じているんだろうなあ、と思った次第です。


 
ヒマラヤのふもとのロータン峠。雪を頂いた山々が見渡せます。ただ少々残念だったのは、若干かすんでいたので近くの山しか見えなかったことです。でもやっぱり雄大!神が宿る山ヒマラヤでの修行。やはり嫌が応にも神聖な気分に浸ります。

 ロータン峠には2時間ほど居て、その後来た道を戻り海抜3,000mあたりでテントを張ってキャンプ。山あいで、ヒマラヤからの雪解け水が流れる川沿いです。キャンプと聞いていましたのでもっと過酷な状況を想像していましたが、それはそれは素敵なところでした。食事は手配した旅行会社の方で現地で作って出してくれました。レストランで食べるのと同じおいしい食事でした。しかし食事をするテントの周りには鹿?ひつじ?やぎ?の糞がいっぱいしてあり、その香りの中での食事でした。…そうですなあ、動物園の飼育小屋の中で食事をしていると想像していただくとそんなに違わないかも…。

 さて、ロータン峠4,000m、キャンプ地3,000mとなると…そうです!この暮れ正月にペルーで体験した「高山病」が問題。出ました、出ました。同じ症状が出たのです。僕はやはり頭が締め付けられるようになり軽い頭痛と少しのむかむか吐き気。森田先生はお腹が村祭りに(ピーヒャララ!)。ペルーのときほどひどくなかったのですが、それでも同じ症状でした。そこで二人とも、その日の夕食は抜くことにしました。断食する旨を係りの方に知らせたところ、翌朝には、…なんと我々二人は修行のために断食をした!ということになっておりまして…。まあ、そういうことにしておきましょう。

 雪が残っていると思えば下界では49度!路上生活者がいる一方上は超大金持ち!IT産業で知能は抜群と思いきや物づくりはとにかくへたくそ!なんともピンきりの国、インド。僕は、この混沌さがインドの魅力のひとつではないかと感じるのですが、近年の目覚しい経済発展でその「よきインド」が次第に失われつつある…と今回のツァーの添乗員が言っておりました。「発展」…喜ぶべきものなのか…どうなんでしょう?座してじっくり瞑想したいと思います。 

御礼

 最後に、再々度の渡印および貴重な体験の機会を与えていただきました日本マタニティ・ヨーガ協会、森田先生に厚く御礼申し上げます。

 また今回の修行旅行の主催者であり、なまくらヨーギーである僕の参加をご許可ならびに聖名までいただきました日本ヨーガ・ニケタン代表、木村慧心先生に御礼申し上げます。

 今回の体験をこれからの人生に活かしていく所存です。ありがとうございました。

合掌